神木の杉を売った村に続いた怪火
どんな伝承か
山城国葛野郡梅ヶ畑中島村の清竜神社の境内には、昔から神木とされる一丈五尺ほどの杉の大木があった。明治十二年、村の伍長人見徳兵衛が村人と申し合わせて届けを済ませ、京都の谷口慶二郎に売り払うことにした。八月二十一日、樵夫たちが伐りにかかると、急に手足が震え目がくらんで作業にならない。そのうち岡田亀三郎の家から火が出て、消火のさなかに谷口嘉七、奥田金兵衛、広田卯兵衛の家からも次々に燃え上がり、広田方は三度目の火で丸焼けになった。放火でも失火でもなく、村は神木を売った罰と考えて杉を買い戻し、垣と注連縄で囲ったという。
原典より
その騒ぎに、京都府庁からも巡査や役人が出張して、出火の原因をきびしく詮義したが、それは放火でもなく、また粗忽火でもなく、いかにも稀有な怪しい出火なので、一同もただ不審の眉をよせるばかりであった。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。