虫を食べて山を歩く裸の女
どんな伝承か
佐々木喜善の報告に、今から三年ばかり前、陸中上閉伊郡附馬牛村の山中で、三十歳前後の一人の女が、ほとんど裸体に近い服装に樹の皮などを纏い付けてうろうろしているのを村の男が見つけた。どこかの炭焼小屋から持ってきたものか、この辺でワッパビツと名づける山弁当の大きな曲げ物を携え、その中に色々の虫類を入れて、歩きながらむしゃむしゃと食べていたという。遠野の警察署へ連れて来たが、やはり平気で蛙などを食っているので係員も閉口した。そのうち女は朧げな記憶から汽車のことを口にし、次第に生家の様子や親の名を思い出し、村の名まで言うようになった。和賀郡小山田村の者で、七年前に産後に家出をして山に入ったのであった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。