八年間笑い通して骨と皮になった患者
どんな伝承か
四百四病のなかでもこれほど奇妙な病もあるまいという奇病の患者が、東北帝国大学の附属病院熊谷内科に入院していた。脳病の一種で、笑いをつかさどる神経だけが働き、他の神経が衰弱するため、朝から晩まで、いや睡眠中まで顔面が絶えずにこにこ笑っているという病気である。患者は病院内での人気者となり「大黒様」という渾名で可愛がられていた。しかし笑いの継続に正比例して生命は縮められ、脊髄中の機関が脳髄下垂とともに損なわれて筋肉は消失し、のちには骨と皮ばかりとなり、ついには舌までなくなった。患者の名は佐藤悌(二十七)といい、入院したのは八年前の十九歳のとき、そのあいだ小止みもなく笑い通したのであった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。