槍術通いの少年と駆け比べる狐
どんな伝承か
明治より前、著者の父が年少のころ、毎日未明に仲間二、三人と槍術の道場へ稽古に通っていた。その途中、御勘定所の裏町を通り、ある邸の前まで来ると、必ず高塀の上に一匹の狐が現れて、下を通る少年たちと並んで進むのが常であった。少年たちがそこを通るとき、まず「出んか」と声をそろえて呼びかけると、待っていたと言わんばかりに狐がひょっこり飛び上がって現れる。少年が走ると狐も走り、後ろへ駆け戻ると狐も駆け戻って、双方じゃれ合ったという。
原典より
其處を通る時、先づ「出んか) 」と聲を揃べて呼びかけると、待つてゐたと言はぬばかりにヒヨコリと狐が飛上つて現はれ、少年が走ると狐も走り、後方へ駆戻て見せると狐も駐戻り、双方ぢやらけ合ったと云ふ。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。