雪玉で戸を叩き袖さんと呼ぶ狐
どんな伝承か
明治十四五年ごろ、松江の字奥谷にある根岸氏の家では、下女の袖がいつも残飯を台所の戸の外に捨て、野良猫や狐に食べさせていた。雪の降る寒い夕方などに捨てるのを怠ると、その夜は決まって狐が戸をとんとんと叩き、袖さんと呼ぶのだった。不思議に思った家の人々がそっとのぞいて確かめると、狐はまず前足で雪玉を作り、戸口で仰向けに転がって雪玉を後足の先に移し、戸に投げ当てては落とさずに受け止め、とんとんと音を立てていた。続いて前足を曲げて交差させるとソーデという音が出て、尾で戸を強くなでるとサーンと響き、三つが続いてトントン袖さんとなるのだった。
原典より
それに續いて尾で強く戶を撫でるのが『サーン』と響き、三者が連接して『トントン/く袖さん』となるのであつた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。